君が好きだから僕は書く

恒松エントのブログとエッセイ

もしも重岡大毅がジャニーズWESTじゃなかったら/映画「溺れるナイフ」

映画「溺れるナイフ」やっと観てきました。

先に観た妻が「ねぇ、ホントに一人で大丈夫?」と聞くので「なんで?」と聞くと、「中年男が一人で観たら、きっと恥ずかしくなっちゃうと思うよ」とのこと。青春と恋愛という、中年男が遥か彼方に置き去りにしてきた2大要素を、果たして周囲の目を気にせず凝視できるのか、不安を抱えたまま観に行きました。結果どうだったかというと、僕が一番感情移入したのは夏芽の父親でして、「ここまでじゃないにしても、娘もいつか、傷つきながら恋をするときがくるんだろうなぁ」とつい思ってしまった自分に、僕はこの映画を観る権利はないのかも、と考えさせられました。

冗談とも本気ともつかない冗談はさておき、「溺れるナイフ」なんとも純情で繊細な物語でした。純情とは決して爽やかなものではなく、純粋であればあるほど、乱暴になるものだと僕は思うのです。人間的であったり、社会的であろうとすると、どこか自分の感情を押さえ込んだり、時には意識的に欺いたりする必要もあります。映画で表現されていた若さ故の純情さは、その乱暴さが剥き出しで、それは確かに僕が既に遥か彼方にもう置いてきたものでした。その意味で「溺れるナイフ」は、本当に純粋な青春映画でしたね。

ただその若さ故の純情を表現するには、冷静に意図して演じられる役者か、本当に剝きだすことのできる役者という名の素人が必要になります。主役の小松菜奈と菅田将暉が演じる役は、ビジュアルも含め、できる人が限られる役なんだろうなって感じました。最初に強い印象を残した二人の出会った瞬間のシーン、物語の最後まで、ひいてはこの恋愛の行く末まで、あの二人が演じた印象で支配できた点が、この作品の全てのような気がしました。というか「ピンクとグレー」観たときも思ったけど、菅田くんが演じる狂気は、絶妙にコントロールされてるんだよなぁ。上手いなぁ、と改めて思いました。

さて、しげを観に行ったので、しげについての印象を。重岡大毅くんが演じていた大友勝利*1という男は、田舎者の僕からするといかにも僕たちの周りにいそうな男で、実際にかなり親近感を持って僕も観ていました。そのいかにも平凡な大友という男の魅力も、コウという非凡な存在感を持った男の魅力と、夏芽にとっては両天秤になる重さを持ってたと思うのです。実際には両天秤というか、コウが遠ざかって空いた穴を、大友の優しさで埋めていただけだから、平衡は全く保たれてないんだけど。それでも夏芽にとって、これでいいんだと思わせるだけの魅力が、至極平凡な大友にもあったんですよね。

つまり地味で平凡な魅力を、特別な魅力と同等に見せることで、両天秤が成立していたわけです。どこまでも優しい大友の魅力が滲み出てたことを考えれば、役者・重岡大毅はすごく機能していたんじゃないかな、って僕は思いました。

僕の隣で見ていた女性二人組が、しげの一挙手一投足に色めき立っていて、ほぼ明らかに重岡大毅ファンだったと思うのですが、映画を観たと思われる女性の反応をTwitterなどで見る限り、僕の隣のしげファンと同様、大友勝利という実生活で想像しやすい男に重岡大毅を重ねて観ていた人も多いんじゃないかな、と感じました。実際、僕も観ていて「大友ってなんだかしげっぽいな」と率直に思いました。

実際には、重岡大毅と大友勝利の近似性なんてわかりやしません。ただ、あの優しく、真面目で、まっすぐな印象が、僕たちが重岡大毅という人に抱いているイメージに限りなく近かったんだろうな、と思いました。もしも重岡大毅という人間が、ジャニーズWESTではない、市井の人として平凡な人生を歩んでいたとしたら、きっとこういう人で、こういう恋をして、こういうキスをして、こういう励まし方をしたんじゃないかな、って想像をさせてくれるようでした。なので、劇中の大友勝利がいる世界は、あたかも、しげのパラレルワールドを観たような気分になりました。

ちなみに僕が好きだったのは、ありきたりですが、カラオケのシーン。こいつ、どこまでも優しい、あたたかいやつだな、って。で、僕が勝手に思うしげの印象と、やっぱりカブるんですよね。だって「キミはキミのために生きるんだ ボクはキミの陽だまりになる」*2ってしげも歌ってたくらいですから。だから、正しい映画の見方じゃないことを承知で、映画「溺れるナイフ」は、一人の女の子の背中を、泣き笑いで強く押した重岡大毅のパラレルワールドストーリーだと思って観るのも、ある意味正解なのかなって思っちゃったりします。

*1:「大友勝利」って『仁義なき戦い 広島死闘篇』で千葉真一が演じた役名と同じなんですね。劇中では関西弁と広島弁が混じった役だったので、きっと作者のオマージュなんですよね。

*2:ジャニーズWEST「ボクら」歌詞より引用。