君が好きだから僕は書く

恒松エントのブログとエッセイ

「Catch me if you can」全力で逃げ切る5人/嵐「untitled」

嵐の2017年アルバムが出ましたね。嵐のメンバーが常々言っているように、毎年アルバムが出て毎年ツアーがあるって、本当にすごいことなんだなと思います。もちろん彼らのその言葉は、スタッフの方々の優秀な仕事ぶりに向けられたものでもあるでしょう。同時にその言葉は、誰の目から見ても明らかに多忙なこの状況で、ものづくりに心血を注ぐ精神的肉体的負担を痛いほど知りながら、今年もまたその挑戦の決意に至った嵐自身に向けられたエールのようにも思えます。

毎年必ず結果を出す、それも何かしら違う形で。自分の生活で、そこまで毎年チャレンジすることなどあるだろうか。それも、ここまであらゆる人の目に晒される形で。想像すればするほど、本当にすごい、途方もないことなんだと痛感します。嵐さん、今年もアルバムを作ってくれてありがとう。ライブすっごく楽しみにしてます。

「untitled」ってタイトルを最初に聞いたとき、ちょっとふわっとしたタイトルだな、って実は思いました。嵐のアルバムと言えば、ここ数年は明確にテーマがありました。嵐と言えば明確なテーマでものを作る、というイメージが勝手に僕の中にあったのかもしれません。タイトルからして実験的なアルバムなんだろうな、とは想像できました。

嵐もきっと方向性を新たに模索するときがきたんだろうな。大作の組曲もあるらしい。今までにないことにもトライするようだ。もしかしたら敢えて発散させたアルバムになるのかもしれない。あるいは聴いたら驚き戸惑っちゃうようなアルバムになるのかな。抽象的なタイトルは、そんな思いを起こさせました。

でも実際に「untitled」を聴いて、そんな想像はさらっと裏切られちゃいました。思っていたよりずっと、純度の高い嵐が詰まったアルバムに仕上がってました。ああ嵐って、歌って踊るグループなんだな、そして幸福感を感じるグループなんだな、それがアルバムを聴いたファーストインプレッションです。むしろコンセプトが明確にない分、嵐らしさが素直に表れているような、そんな気さえしました。

アルバム全体を通して聴くと、随分バリエーションに富んだ印象を受けます。個性的なアレンジの「I'll be there」と「つなぐ」、比較的フラットでマス向けなアレンジの「Power of the Paradise」といったシングル曲を含め、アルバムを構成する曲からはさまざまな方向性への模索が見受けられます。ただどの曲も現実的なバランスがちゃんと意識されていて、多くのものをブレンドしてもきちんと「嵐っぽい」ですよね。冒険しつつも多くの人が楽しめる内容で、そういう意識もまたある意味「嵐っぽい」なって思います。

あと細かいことを言うと、今回はリズムが複雑で難しい曲が多いですね。ファルセットやハモりも多めで、歌の表現はこれまで以上に難しいことにチャレンジしてるんじゃないですかね。実際歌ってみてもかなり難しかったですよ、今回の曲は。

個人的には、「Green Light」とか「Sugar」のようないかにも踊りそうな曲を聴くと、ついライブが楽しみになっちゃいますね。特に「Sugar」大好き!疾走感あるリズムに乗って、甘い声と突き抜ける声が交互に絡み合いながら、切なさを纏ったメロディラインを奏でる。大人の嵐が、理性を狂わせるような恋を、歌いそして踊る。あーどんなパフォーマンスになるんだろうっ!?あとユニット曲の「夜の影」も、すごくいい。大野くんと末ズの1vs2ガチンコバトルを、激しく期待しちゃいます。どうなるんだろうなー、ワクワク。早くライブで歌って踊る嵐が観たい!

ユニット曲というのは、考えてみたらありそうであまりなかったですよね。これだけ嵐の中で個々の関係性にフォーカスされることが多い中、それを曲として表したことが意外となかったので、こういうチャレンジできるアルバムでまず形にするのが、一番すんなり収まるように思いました。3人曲を含め、嵐の新しい可能性の1つとして、個別の関係性を具体化して生まれる表現を試したかったのかもしれませんね。翔潤好き&にのあい好き*1の僕としては、その関係性を投影したような楽曲が想像以上の直球ど真ん中で来たので、いい曲ができて嬉しかったなぁ。ああ、これもコンサートでどんな雰囲気になるんだろう、本当に楽しみ!

ところでこの「untitled」に収録されている楽曲、僕は歌詞がすごく前向きで力強いなと思いました。ポジティブな言葉の一つ一つが、まるで嵐の決意表明のように感じました。中でも櫻井くんのRap詞がとても象徴的で、以前に大野くんとNEWS加藤シゲアキくんとの鼎談*2で口にした「全力で逃げ切るよ」という言葉を思い出させました。

良い悪いという話ではなく、15年20年と活動すると、同じ集合体での活動自体が次第に難しくなるものだと僕は想像しています。あるいは創作意欲の遷移だったり、あるいは人間関係の問題だったり、あるいは気力や体力の問題だったり。長く活動を続けたグループが、やりきった、という理由で活動を休止するのを何度も目にしました。それ自体むしろ、そこまで全力を尽くしてきた証なのだと僕は思っています。そもそも作り上げて来たものが多いほど、それをキープするだけでも大変なことです。常に新しいものを作り続けるということは、長く続ければ続けるほど難しく、ほんの些細な理由でも実現が困難になり得ます。

ましてや嵐は、おそらく日本で一番と言っても過言では無いくらい、多くの人が注目するグループです。彼らがそれを自覚してなお「untitled」という挑戦的なアルバムを作ったということが、いったいどれだけ難しく、どれだけ重圧のかかることなのでしょう。正直、もっと気軽に楽しいライブでも、僕たちは十分幸せなのかもしれません。過去の膨大な資産を有効活用しても、十分に新鮮味のある活動は成立するはずです。それでも嵐は、CDを出す、ライブをやる、新しいものを産み続けることを当然のごとく選択しました。

実際、今年で18周年にして16枚目のオリジナルアルバム。デビュー以来ほぼ毎年アルバムを発表している嵐にとって、新しいものを産み続けると言っても、新しいことを見つけること自体がもはや難しいことだと思うのです。しかし嵐はこのアルバムで明確に、今までにない新しい嵐を探ろうとしています。それも単年ではなく、本気で「全力で逃げ切る」ために、向こう数年の長期計画で。あれだけ多くのものを作り、多くのことを成し遂げ、もう作っていないことも成し遂げていないことも簡単には見つからない状況でも、嵐はまだ探し続けているのでしょう。きっとファンにまだ見せたことのない景色を見せるため、嵐はどこまでも嵐であろうとしています。

嵐は「無題」という方向感のない、どこが前なのかもわからない状態でも、自ら灯したGreen Lightを信じ、前と思う方向を向く。「Catch me if you can」そう叫びながら全力で走り出した5人。そんな自らの状態と決意を、この「untitled」というタイトルに込めているのかもしれません。

嵐が目指す未踏の未来って、本当に誰にもわからないんでしょうね。「untitled」を聴いたときに湧いてきたワクワク感は、ライブでどんなパフォーマンスを魅せてくれるんだろうというだけでなく、本人さえもわからない未来に向かって嵐が他の追随を許さない決意で走り出した、その本気さに対する期待感なのだと思います。あー、「untitled」な嵐の先に、どんなライブが、どんな未来が待ってるんだろう!

「untitled」(通常盤)

「untitled」(通常盤)

*1:まぁ、山も爺孫も好きですが、何か?

*2:2015年7月31日放送『ZEROカルチャースピンオフ アイドルの今、コレカラ』今思っても本当に三者三様の想いが伝わる、いい鼎談だったと思います。